単行本が出る前と後のこと

大学に勤めだしてからもう十年くらいになるかもしれない。准教授として専任で働き始めてからは八年。家計の全てを私が支えていたけれど、父親が癌になってもっとお金が必要なのがわかって、諦めてしまった。大学への通勤に往復4時間、週に三日、さらにもう1日、専門学校でも仕事をしていた。週に三日の休みじゃ漫画は描けない。だから漫画を描くのは諦めてしまった。だけど漫画を描くのは好きだったし、描けば喜んでくれる人もいるだろうから同人誌だけは続けた。それとイラストの仕事も。でも商業誌の漫画の仕事なんて責任の重いものには手が出せなかった。おおよそ二十年間ほど、漫画はアシスタントも入れずに一人で描いてる。だからやっぱり片手間では描けない。

今回の「ディア・ダイアリー」を出すにあたって、書き下ろしを含めることになっていた。大学の冬休みや春休みを使って少しずつ描いていたけどちっとも間に合ってなかった。最後の3週間ほどは大学の授業を休ませてもらってほとんど寝ずに描いていた。Twitterなんかで単行本が出ることを伝えたかったけど、もし何かの手違いで本が出なくなってしまったら、誰かをがっかりさせてしまうんじゃないかと怖くて、本当に発売日が決定するまで何も云わないと心に決めた。単行本が出ることが決まってからは、力を貸してくれた編集さんや出版社の方の恩に報いるために、なるべく明るい要素を持ち込んで宣伝をしていこうと考えた。それで毎日落書きを描くことにした。休んでしまった分の授業を補いつつ、なるべく毎日描けるように努力した。大学の先生や助手の方々も授業を助けてくれてとてもありがたかった。甘えてしまってばかりで申し訳ない気持ちでいっぱいだった。長い間サジを投げずに待ち続けていてくれたファンの人たちに応えるために、私ができることは漫画を描くか、絵を描くことしかないんだと知っていた。だから何か描こうと思った。喜んでくれる人がいるのは幸せだ。居場所があるのはとても幸せなことだ。そのことの気づけたことがここ何年間で最良の出来事だ。「フォレスト・ガンプ」という映画が大好きなんだけど、その中に、エビ獲り船のジェニー号でダン中尉がフォレストに「まだ礼を言ってなかったな」というシーンがある。結局中尉は礼を言うわけでもなく、川に飛び込んで泳いで行ってしまうんだけど、フォレストはダン中尉を見て「神様と仲直りした」と感じる。記憶で書いているだけで定かではないんだけど、そのシーンがとても好きで、何度見ても何かを考えてしまう。その映画のシーンのように、私も漫画に背を向けていたのかもしれない。今は仲直りしようと、散らばった破片を拾い集めているところなのかも。ごめんなさいを云うのは簡単じゃない。時間がかかる。だけどいつか云わなければと思っている。

わかりにくい日記ですみません。



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